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【尾道市】TEA FACTORY GEN 高橋さん

 明治時代に茶道の精神を通して日本の暮らしの哲学を紹介した岡倉天心著『茶の本』に感動し、「茶」の魅力にとりつかれ、茶に関わる仕事がしたいと考えた高橋玄機氏。生産農家、卸問屋、小売店というこれまでの枠を超え、栽培、製造、仕入れ、ブレンド、焙煎、販売、さらには海外でのワークショップまで全ての工程に関わり、消費者との距離の近い新しい事業のあり方を模索する。

(世羅郡世羅町にある茶畑)

■知れば知るほど深い日本茶の魅力と疑問。常識を疑い、自分の体験を通して無肥料、無農薬の茶を研究
 「従来の枠にとらわれず、日本茶もクラフトビールのように誰でも参入でき、新しいお茶の楽しみ方ができる仕組みを作りたい」と語る高橋玄機氏は31歳。
 お茶と言えば麦茶しか知らなかったという20歳の頃、明治時代に書かれた岡倉天心の『茶の本』に出合った。「単に茶を飲むという行為だと思っていたことが、深く暮らしに溶け込み、日本人の精神文化の根幹となっていることに驚きました」
 留学や旅行での海外経験を通して自分探しを続ける中、日本の文化を形作って来た「茶道」を含めて「茶」に関わる全てを学びたいという思いが強くなり、老舗茶舗に勤める。その後、仕入れて販売するだけではなく、自分の言葉で語るためには生産現場を知っておきたいと、30ヘクタールもの農場でオーガニック茶を栽培する鹿児島の製茶工場へ。九州全土の自分がこれはと思う生産地を巡ったが、「オーガニック」という言葉が一人歩きをしていて、「自然と言いながら、ビジネスのための言葉でしかなく、いびつさを感じました」
 オーガニックが自然環境にとって果たしてベストなのか。有機肥料でも、与えすぎれば、栄養過多になり、土壌も汚染されてしまう。知れば知るほど疑問も大きくなる。長野県の自然農法国際研究開発センターで自然農法の研修を受け、奈良の健一自然農園で現場の茶づくりを学ぶ。
 旨いお茶は無肥料ではできないと言われていたが、大量生産を考えなければできるとのこと。産地や品種だけでなく栽培法や肥料によって味が違うこと。無肥料のお茶は、江戸時代の本にある「清風が吹く」という表現にぴたりとはまり、お茶本来の甘みが際立ち、渋み、苦み、えぐみが少ないことも自分の舌で知った。その上、時間をおいても腐らず、枯れていく。それが本来の自然の姿だと気付いた。
 しかし、一般通念の中ではこうしたお茶は評価されにくい。「売れないのなら、直販できる独自の売り先をつくればいい」。逆転の発想で大きく舵を切った。
 まずは「多くの人においしさを知ってほしい」。「コーヒーはどこでも飲めるのに、ちゃんとしたお茶を飲めるところがない。ないなら、自分でやってみよう」。日本茶カフェを始めた。日本茶のソムリエ資格「日本茶インストラクター」であり、日本茶イノベーターを自称する高橋氏は、誰もやっていない淹れ方…コーヒーのドリップやエスプレッソマシンで日本茶を淹れてみたりするうちに、初めて、自分が心底お茶が好きなんだということがわかったと語る。


(世羅郡世羅町にある茶工場)

■新しい価値観で日本茶を再発見し、新しい楽しみ方で世界中に日本茶文化を広めたい。
 2017年、TEA FACTORY GENを立ち上げる。「ひろしま産業振興機構」の創業支援を受けながら、県内の茶畑を探して、さまざまな農家を訪ね、標高が高く、古くから茶の栽培を続けてきた世羅郡世羅町の茶畑を借り受けた。約20アールの茶畑では刈った草を根元に敷き詰め、化学肥料はもちろん、農薬も一切使わない。「おかげで、クモやカマキリ、バッタやカエルなどの昆虫が増え、葉を食い荒らす虫を食べてくれる。土壌微生物も健在で、4年近くたった今では畑の中に一つの生態系ができあがっています」
 化学肥料による栄養過多もなく、化学肥料に大量に含まれる窒素成分が少ないので、お茶本来の淡泊ですっきりした味が楽しめる。しかも新芽の出方を見て樹勢を判断、摘むのも2回まで。手摘みしたお茶は、焙煎やブレンドなど製法を変えて、ウーロン茶や煎茶、和紅茶として販売。「従来の日本茶にとらわれない作り方に挑戦したい」。尾道の浜で作られるデビラの干物から発想した「浜茶」は、茶葉を潮風で乾燥させたお茶だ。かすかな潮風の風味と凝縮した甘みが今までの日本茶にはない風味を醸しだし、話題になっている。
 今般、「ひろしま産業振興機構」のひろしま創業サポートセンターに事業成長が見込まれると認められ、「成長支援コーディネーター支援事業」の事業者に決定、専門家チームによる指導助言が受けられることになった。「専門家のアドバイスが受けられて心強い」と喜ぶ。
 お茶の栽培、製造までは何とか軌道に乗ったが、「広島のお茶を知ってもらうための取り組み」の必要性を痛感している。コーヒーのように街で気軽に日本茶を飲めるティースタンドの展開や、ホテルなどでのプレミアム感のあるスペシャルな飲み物として位置づけていくこと、クラフトビールのように気軽に自分好みのオリジナルなクラフトティーを作れる施設があればと、課題も夢も山積みだ。
 こうした取り組みを日本茶イノベーター高橋氏は「第4次日本茶革命」と呼ぶ。遣唐使が中国からお茶の種子を持ち帰り、日本に普及させた「第1次日本茶革命」、千利休がわび茶を大成した「第2次日本茶革命」、京都宇治の永谷宗円が煎茶製法を編み出した「第3次日本茶革命」に次ぐ「日本茶革命」だと豪語。新しい価値観で日本茶を再発見し、ワークショップなどを通して新しい楽しみ方で世界中に日本茶フリークを作り出そうと意気込む。日本茶の持つ可能性の大きさに「ワクワクします」と語る。
 持続可能な栽培・製法の改革、茶のあらたな需要の開発、急須に代わる抽出法など、まさに「温故知新」を繰り返しながら、新しい日本茶文化を提案していくという。
 自ら栽培、製造、仕入れ、ブレンド、焙煎、販売、ワークショップと全ての過程を知り、一貫して関わることで、生産現場と消費者の距離が縮まり、相互理解が深まる。これまでなかった新しい仕組みが日本茶の世界のみならず、世界の人々の意識を変えていく。「まず、茶の文化、魅力をもっと広く伝えなければ。単なる嗜好品ではなく、必需品になってほしいんです」
 新しい価値観と栽培から製造、販売まで一貫した仕組みで、無肥料、無農薬の日本茶を世界に。「第4次日本茶革命」と位置づけ、新しい日本茶文化を提案するイノベーター。

TEA FACTORY GEN ティーファクトリーゲン 概要
住 所/広島県尾道市土堂1-14-10
代表者/高橋 玄機 氏
創 業/2017(平成29)年
事業内容/日本茶の製造販売
     店舗:TEA STAND GEN(ティースタンドゲン)広島県尾道市土堂1-14-10
       ※土日のみ営業 11:00~18:00
     茶畑:広島県世羅郡世羅町加茂2752
     工場:広島県世羅郡世羅町3-2
ホームページ/http://tea-factory-gen.com/

 この記事は、公益財団法人ひろしま産業振興機構の情報誌「HIROSHIMA産振構NEWS 2019 №113」の「広島でガンバル企業」という特集ページに掲載されています。

(2019年9月30日現在の情報です。)
ひろしま創業サポートセンター 藤岡