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Z世代 新起業論 vol.2 「インド刺繍 その非効率を愛す」

CONTENTS 

01 Z世代の新・起業論とは?

02 itobanashiのこと

03 語り手・聞き手

04 itobanashi 伊達文香さんの新・起業論

 

01 Z世代の新・起業論とは?

  みなさんの職場では、「効率よく仕事をすること」、いわゆる”生産性”が何よりも重要視されていませんか。より速く、より多く…そんな働き方のおかげで、たしかに私たちの生活は文明的に豊かになりました。しかし、その一方で、ゆとりを失った働き方により、長時間労働に追われ、体や心の健康を損ねる人も増えています。 

  ”本当の豊かさとは何か”を改めて問い直すため、独自の価値観で新事業に挑戦する方を取材する本企画「Z世代の新・起業論」。第2弾となる今回は「脱効率」という視点から、東広島市志和町の「ししゅうと暮らしのお店 itobanashi」を訪ねました。これからの時代を生き抜くヒントや既存の価値観を見つめ直すきっかけとして、本編をぜひご覧ください。 

02 itobanashiのこと 

  奈良に本社を置く「itobanashi」は、インド刺繍を取り扱うアパレルブランドです。代表取締役の伊達文香さんが、広島大学大学院在学中の2016年に個人事業として立ち上げ、2017年9月から法人化し、今年6期目を迎えます。 

  月に3日だけ”オープンする「ししゅうと暮らしのお店」は、築100年以上の古民家を改装した店舗を東広島市志和町や奈良県五條市に構えるほか、蔦屋書店や百貨店などでもポップアップ販売を行っています。店内には、インドの職人がひとつひとつ手作業で刺繍を施した布で仕立てられた洋服や”作り手”の個性が光る雑貨、日用品などが並びます。 

 

 

店内には洋服以外にも、刺繍のブローチやストール、クッションカバーなどが並んでいる。毎月のオープン日に合わせて新商品を入荷し、注目のアイテムを取り揃えて紹介している。 

 コロナ禍の2021年から始まった、この 月3日”の営業スタイル。さまざまな事情から最初はやむを得ず3日のみの営業としてスタートしましたが、それが逆に特徴のひとつとして注目度が上がり、今では開店日を目がけて県内外から多くのお客様が訪れるそうです。 

 さらに2022年2月には、これも築100年を超える元饅頭屋の店舗を活用し、ビーントゥーバーチョコレート専門ブランド「chocobanashi」を奈良県にオープン。カカオ豆の産地ごとのテキスタイル柄をパッケージに採用するなど、itobanashiらしさ”を詰め込んだチョコレートを製造・販売しています。 

 

03 代表取締役 伊達文香さんのご紹介 

奈良県出身。大学進学を機に広島へ。大学院を含む6年間、心理学を学ぶ。その傍らで、ファッションサークルや災害支援ボランティアで活動。インドとの出会いが契機となり、大学院在学中に起業。経営はもちろん、衣服のデザイン全般を手掛ける。 

 

04 ひとつひとつが手作業 インド刺繍の魅力 

 「itobanashi」は、インドの職人が作る手刺繍の洋服や雑貨を展開するアパレルブランド。“月に3日だけオープン”という、一見非効率な経営の奥にある伊達さんの想いや考え、未来への展望を伺います。 

 

「itobanashi」のメイン商品であるインド刺繍の洋服は、どのように作られているのですか?

 私たちが扱うインド刺繍の商品は、私たちが考えたデザインに基づき、ほとんど全ての工程を現地の職人が手作業で作っています。インド刺繍の図柄は、地方によっても異なりますし、宗教的な背景や平和への祈りが反映されたものなど様々です。大きな図柄になると、約2ヶ月間も毎日休まず布に針を刺し続ける生活を送ることもあり、そうした光景が日常となっています。

 

 そんなに時間がかかっているのですね!伊達さんにとって、そんなインド刺繍の魅力は何ですか?

 私は素晴らしいインドのものづくりが大好きで、彼らの技術を尊敬しています。しかし一番の魅力は、「すべて同じじゃないこと」ですね。 

 インド刺繍は1000年程の歴史があります。それぞれの文化や民族ごとに経てきた歴史や地域性が、刺繍にも表現されていることが面白いと感じています。 

刺繍の魅力について、熱く語る伊達さん。

 

 

商品の中には、刺繍に出会うきっかけとなった「カンタ刺繍」もある。人や動物がモチーフになったこの「カンタ刺繍」は宗教概念が生まれる前からあったと言われており、偶像崇拝が禁止されているイスラム圏においても自分たちの歴史を残すため、今も刺繍が続いているのだという。 

 

 

 

それぞれの経験が繋がることで 開けてきたインドへの道

 

 そもそも、伊達さんがインドに興味を持ったのはいつですか? 

 2011年の3月ごろです。奈良の田舎の出身なので、大学では広い世界を見たいと思い、1年生の春休みに海外旅行を計画しました。アジア圏でもう一度行きたくなる国として圧倒的人気だったインドを選び、スタディツアーを利用して訪問しました。

 そんなインド滞在中の3月11日、あの東日本大震災が発生し、その悲惨な出来事に言葉を失いました。その衝撃から帰国後はすぐに、震災復興支援のボランティアに参加します。

 

 震災を知り、ボランティア活動へと向かわれたのですね。 

 はい。様々な国籍の学生たちと一緒に活動するなかで、再びインドと関わることになります。インドの知識を深めるワークキャンプを彼らと企画し、学部生の間に現地へ5回行きました。回数を重ねるごとに社会問題にも関心が高まり、中でも気になったのが同年代女性の人身売買でした。

 そんななか、売春婦として働かされていた女性を保護し、縫い物などの職業訓練を実施するNGOに出会い、そこで作られた彼女たちの刺繍を手にしました。団体によってはクオリティの高いものもありましたが、せっかくの商品も人手不足により販売にまでは手が回っていませんでした。

 

 それを知った時、どうしたのですか? 

 自分のこれまでの経験を繋げて、何かできないかなと振り返りました。どれも好きで取り組んでいる活動ではあるものの、それらがバラバラだといつも悩んでいたからです。両親の影響により幼いころから大好きだった洋服への想い、自作の洋服で開催したサークル活動でのファッションショー、学びを深めた心理学や震災復興、インドへの想い…それらを繋ぐことができる可能性を探しました。 

 進路に悩んでいたため一旦は大学院に進みましたが、すぐにインドの女性たちが紡ぐ刺繍を使った洋服でファッションショーをしたいと考えるようになりました。大学院2年生の時には大学を半年間休学し、文部科学省が実施した留学プログラムを活用してインドに留学します。 

 その後、クラウドファンディングで資金を募り、留学して3ヶ月目、無事にインドでファッションショーを開催することができたのです。 

 

 

国内外の雑貨や食器が並ぶ土間部分。この土間の黄色とグレーの壁の配色に惚れ込み、伊達さんはこの物件を借りることにしたのだそう。築100年をこえる建物は今、国境を超えたさまざまな商品によって彩られている。 

 

 

 

素晴らしい刺繍を届けるには “非効率を愛する”ことから 

 

 留学中のあるとき、現地で刺繍をしている女性が「この刺繍をしていると、ふるさとを思い出せるのよ」と話してくれたのですが、その彼女の一言に私は衝撃を受けました。それまで私は、自分を売った家族やふるさとの思い出は、きっと辛い記憶だろうと勝手に思い込んでいたのです。しかしその言葉を聞き「彼女にそんな思いを抱かせる刺繍とはどんなものなのか」と、より一層刺繍の魅力に引き付けられました。

 

 その出会いが、のちの起業に繋がるのですね。 

そうです。彼女の言葉をきっかけに、留学期間の残り2ヶ月、刺繍の産地を巡っては布を買い集めました。そうするうち、今度はその布で服を作りたくなったのです。そこからいくつかのビジネスコンテストに応募し、うちひとつに入選して得た賞金を使って、サンプルの洋服を5着作りました。これが「itobanashi」の始まりです。

 

 流行の速いアパレル業界。刺繍という時間と手間のかかる“非効率”な商品を展開することについて、どのようにお考えですか? 

 事業化を考えはじめた頃に相談した人には全員、反対されました(笑)。しかし、誰かがやらないとこの技術は残らないと思い、諦められませんでした。 

 インド刺繍の歴史や現状を知るなかで見えたのは、素晴らしい技術を持った職人の作るものでさえも現地では安く売買され、職人たちが貧困から抜け出せない現実です。 

 私は、質の良いものを適正な価格で取り扱い、彼らが刺繍職人として仕事を続けられる環境を整えることで、大好きな刺繍の魅力を伝え続けていきたいです。 

 刺繍を扱う以上、絶対に“非効率”はなくなりません。むしろそれらを“愛すること”ができてはじめて、お客様にも価値を感じていただけると思っています。 

 私たちができるところで効率化を図りつつ、“非効率”と言われる彼らの素晴らしい手仕事をこれからも届けて行きます。 

 

 

月3日だけのオープンのため、スタッフは学業や別の仕事を持っている。伊達さんは「多様な働き方ができるのも、この営業スタイルだからこその利点ではないかと思っています。」と話す。 

 

 

 

 

今回のおさらい

  • 良いものを続けるためには、適正な評価が大切
  • 好きなことをやり続ければ、きっと何かに繋がる
  • 非効率を愛することで、新しい価値を生み出す

 

 

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(令和5年1月25日)
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